デザインプロデュースの現場


拡張しつつあるデザイナーの役割

  • 2013年1月30日(水) 13:50 JST
  • 投稿者:
    matsumoto

太刀川英輔

「デザインプロデュースの現場」外部取材記事です。

慶應義塾大学大学院・建築学科出身の若手デザイナー・太刀川英輔氏。これまでに数々の国際賞を受賞し、ブランドづくりの根本から商品企画、グラフィック、パッケージ、建築、空間デザインなど複数の領域にわたり、トータルにディレクションを行っています。

太刀川氏が数々のプロジェクトに関わる中で見出してきた、今デザイナーに求められる能力、デザインプロデュースを成功に導く要素について、お話を伺いました。


デザイン分野に進出する建築家
近年、建築家の活動領域が拡大してきています。経済の停滞により業界が冷え込み、新築を建てるのが難しい状況の中、都市やコミュニティとかかわる、アートやデザインの領域に進出する、WEBなど、建築以外のものを建築的思考で構築する、といった活動をする人たちが増えてきているのです。

僕自身も建築出身ですが、インテリアデザインを手掛けたり、アート・インスタレーションを作ったり、コンサルティング的な仕事をしたりと、幅広い動き方をしています。

建築という分野においては、意味づけが重要視されます。デザイン分野の中でも世界的評価を勝ち得ている人は、純粋なデザインの価値だけでなく文脈化を得意としていますが、建築家がデザインの領域に進出することは、文脈化を意識し、グローバルに評価されるデザイナーを輩出する可能性を秘めているのではと思っています。

デザインプロデュースを、サッカーにたとえてみる
太刀川英輔デザイン行為には、さまざまな与条件があります。コーヒーカップを作る時に「俺は好きに作りたい。液体のことなんか知らない」と言っていたら作れません。それと同じように、実際に商品を開発してマーケットに投入していくためには、製造からデザイン・販売までのチーム全体の動きを俯瞰し、把握しなければいけません。このことはサッカーの喩えを使うとうまく説明ができます。

優れたサッカー選手には、「身体能力」と「空間把握能力」の2つが求められます。身体能力は個人技、空間把握能力はチーム全体がどこに進んでいくのかを感じ取る能力です。アーティストは前者を重視する傾向にありますが、そういう人はいわば、ロングシュート狙いのミッドフィルダーです。僕もかつてはそうでした。デザイン賞、海外の展示会、雑誌に載る・・・こういう評価を勝ち得たら、点を取りまくれるだろうと思っていました。

サッカーの比喩においては、ディフェンスは製造、ミッドフィルダーはデザイナー、フォワードは営業、そして監督はプロデューサーとなります。下請けの仕事が縮小していく中、多くの製造業者は自社商品開発にシフトしていきたいと考えていますが、この転換が意 味しているのは、ディフェンスに専念していた人がフォワードのことも分かるようになる、ということです。またチームが点を取ってくるためには、優れたフォ ワード=営業が必要です。中盤であるデザイナーは、ディフェンスのこともフォワードのことも学ぶ必要があります。そして個人の能力とチームの戦略が絶妙のバランスを得たときに、いいデザインが出てくるのです。残念なことに、これは今のデザイン教育では教わらないことです。



優れたフォワードとは?

僕 自身が優れたフォワードだと思っているお二人の話をします。
マグコンテナ一人目は、マーケティングのプロデュースと製造販売をする会社「MSY」を営む秋山昌也さんです。まだ30代の若い社長ですが、家具や木製iPhone用ケースなど、世界20カ国に販売しておられます。

僕は2009年に、徳島県板野町にある仏壇の 下請加工会社・坪井工芸からの依頼で、マグコンテナという磁石が埋め込まれた小物入れのデザインを手掛けていました。この商品はプロトタイプとして展示会で評価されたものの、市場に出ることはありませんでした。

秋山社長はこの商品に可能性を見出し、2012年8月にニューヨークで開催された全米最大の雑貨見本市・NY国際ギフトフェアのブースに出品して下さいました。それがグッゲンハイム美術館のバイヤーの目に留まり、その場でミュージアムショップ用の注文が入りました。そこから火がついて、今では国内外から1000個単位の注文が入って来るようになっています。

もう一人は、「和える-aeru-」という、日本の伝統技術と現代の新しいセンスの両方を取り入れたベビー・キッズブランドを、慶応大学在学中に立ち上げた矢島里佳さんです。

こぼしにくい器彼女と話し合いながらデザインした商品に、「こぼしにくい器」があります。器の内側に返しを付け、スプーンで離乳食がすくいやすくすることで、赤ちゃんが食べ物をこぼしにくい器になっています。この器は、石川県の山中漆器、徳島県の大谷焼、愛媛県の砥部焼の3つの産地でつくっています。伊勢丹にプロパー商品として入るなど販路も獲得し、売上も伸びつつあります。

2人とも製品の背景や作り手に対して思い入れが強く、その魅力をストーリーテラーとして語り続けている方々です。製品の背景に込められた物語が社会に浸透していくことで、同時に商品が世の中に広がっていっているのです。

ストラテジーに関わるデザイン
この間、あるコンサルティングファームが開催するワークショップ合宿に参加しました。有識者を集め、いくつかのチームに分かれて話し合い、最後に提案をまとめるというものでしたが、デザイナーが入ったチームだけ、突出して具体的な提案に仕上がりました。それには必然的な理由があります。

デザイナーは、結果をイメージして、そこから逆算してプロセスを見つけていきます。最終的なアウトプットは具体的な形になるので、早い段階でアイデアを形にして可視化させるという方法を取るのですが、こうすると、検討しているアイデアの良さも悪さもすぐに見えてきます。そうすれば、後はバグの部分を消すことに注力できるのです。

僕はプレゼンボード(アウトプットの必然性を説明する資料)を手掛けることが多いのですが、これはとても大事な作業です。2D、3Dのグラフィックを活用しつつ、「このデザインなら、こんなことができます」と説明していくのですが、場合によっては、会議の中でプロトタイピングが終わることもあります。伝言ゲームになると情報の質はロスしてしまうので、その場で決まるのが一番効率的なのです。

山納・松本コーディネータこれまでのデザイナーは、ミッドフィルダーとしての職人芸を磨いてきた人が多かったのですが、今はチーム全体を俯瞰できる、広い視野を持ったプレイング・マネージャーとしてのデザイナーの存在意義が高まってきています。そしてデザインという言葉自体が、そういう意味を孕みはじめています。別の言い方をすると、デザイナーがアウトプットだけでなく、戦略にも関わるようになると、プロジェクト全体が効率的になるのです。

最近はデザイナー・リサーチャー・エンジニア・セールス・ストラテジストなどからなる、10人以下のスモールチームを設計してプロジェクトに関わることが多くなりました。チームの課題を明確にし、裁量を砕いてそれぞれに任せ、アイデアを自由に出し、アウトプットの説得力で開発を進めていく。僕はデザイナーが閉じた世界の中で作家性を帯びてしまうのではなく、メンバーの集合知を活かして協業していくという方向に、可能性を感じています。

太刀川英輔氏の「ツボ」

山納さん・建築家のデザイン領域進出は、芸術系大学、専門学校出身ではないデザイナーの登場、ということでもあります。

・賞を取ったり、メディアに出たりするだけで商品は売れるわけではなく、営業の役割が大事です。

・デザイナーのイメージを形にする能力は、プロジェクト全体を効率的に進める際に活かすことができます。

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デザインプロデュースの「ツボ」

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