デザインプロデュースの現場


デザインプロデュース向上委員会ミーティング 採択プロジェクトのプロデューサーに学ぶ、商品開発。

  • 2013年3月16日(土) 14:40 JST
  • 投稿者:
    matsumoto


2011年4月からスタートしたデザインプロデュース型商品開発促進事業も

最終年度を残すのみとなりました。 初年度2011年には6事業者、2012年には3事業者が採択を受け、現在9事業者が“デザインプロデュース”という視点のもと、事業プロジェクトを成功に導くための活動を続けています。

デザインプロデュース向上委員会ミーティング

採択プロジェクトのプロデューサーに学ぶ、商品開発。
2013年2月27日(水)午後2時~5時
場所:マイドームおおさか8階会議室
山陽製紙株式会社×有限会社マーシーデザインズ 島直哉氏
株式会社アクアテック×有限会社アイシーアイデザイン 飯田吉秋氏
株式会社久宝金属製作所×株式会社ハーズ実験研究所 ムラタ・チアキ氏
大阪タオル工業組合×株式会社尾原デザインスタジオ 尾原久永氏



“デザインプロデュース”とは、プロジェクト全体を見渡すことができるプロデューサーの指揮のもと、市場ニーズに合った商品をお客様に正しく届けていくための手法です。その役割を務めるのは、デザイナー、ものづくり、流通の専門家、企業内部の人など多様であり、またその方法論もプロデューサーによって異なります。
そこで今回、この2年間の採択事業者のプロジェクトを通して、各社代表及びプロデューサーの方々にお集まりいただき、デザインプロデュースの手法について語っていただき、なぜ、いまデザインプロデュースといわれるのかについて考えるミーティングを開催しました。

最初に事業統括コーディネーター山納洋氏による基調講演。次に採択事業者の山陽製紙式会社、株式会社久宝金属製作所、株式会社アクアテック、大阪タオル工業組合4社によるプロジェクトの紹介を経て、各事業者のプロデューサーに登壇いただき座談会を開催しました。



事業統括コーディネーター 山納洋

まず、プロジェクトにおけるプロデューサーの役割についてお話いただけますか。

山陽製紙株式会社 プロデューサー
有限会社マーシーデザインズ 島直哉氏

僕が考えるプロデューサーとは、経営者と共に事業や経営のフレームをデザインできる人。中小企業がプロジェクトを立ち上げ、進めていこうとするとき必ず出てくる障害(業界、人、モノなど)を予測し、問題解決の糸口を見つけ、そこに適材を送り込むなど“アドリブ”を効かし、目標に向かって円滑にプロジェクトを進行させるのがプロデューサーの役割だと考えています。


山納

今回、プロデューサーとして採択プロジェクトに関わる中で一番苦労されたところはどんなところですか。




どのプロジェクトでも、現場の方々に私達が何者なのかということを理解していただくことに一番苦労します。理解を得るため、社員の方には弊社のスタッフと一緒にオリエンテーションや市場調査などに行ってもらうなどをして、私達の業務を理解してもらうことに努めています。

例えば、山陽製紙さんの事業キーワードは“回収”です。そこで、平成23年度のエコプロダクツ展では、出展する紙をつくるための素材として、御堂筋のイチョウの葉の回収を一緒にやりました。2年目、そして今年3年目をむかえますが、この“回収という”キーワードを起点にプロジェクトを様々な動きに連動していきたいと考えています。



山納  

では、株式会社アクアテックのプロデューサーである飯田さんはどのようにデザインプロデュースというものをお考えですか?


有限会社 アイシーアイデザイン 飯田吉秋氏  
私はプロデューサーとして「情報の共有」を大切にしています。企業側との情報共有については、玉川社長にお話をきいていただきたいですね。


株式会社アクアテック 玉川長雄氏  

デザインプロデュースとは経営の根幹をなすもので、中小企業の場合には本来社長の役割だと私は認識しています。厳しい社会情勢のなか、先を読みながらものづくりをするのは社長自らでないとできません。しかし、いかんせん社長一人では何もできないため、プロデューサーという違う視点からの情報提供と、それに基づく重要なアドバイスをもらう事が大切だと痛切に感じています。長年モノづくりをやってきました。しかしつくるだけではモノは価値を生まない。使っていただいてこそのものづくり。プロデューサーにはその価値を広める方向性を示してもらいたいと思っています。



飯田  

デザインの仕事に関わる者は、常に人の暮らしに寄り添うサービスを考えています。人の行為を研究すれば自ずと新しい視点が見えてきます。
アクアテックではポンプによって空気や水を送り出し、流れをつくるという考えのもと“流れを創造する”というコンセプトを創り出しました。この流れという意味を包含し、ポンプを使ったサービスを提供することが重要だと考えています。


山納  

飯田さんは、企業がどんな資源を持っているのかをマップにして「見える化」する、そのうえでの企業をどのように見せていくのか考え、動かれているように思えます。アクアテックでは、医療の専門家、マーケティング、モノづくりなど全般的に理解されている専門家を呼び、社内向きに勉強会をされていましたね。




飯田

プロジェクトを成功させるためには、社員や協力会社全員の情報共有が大きなポイントです。まず、社長自らが事業のあり方、考え方を含めて社員の意識統一をする。そのためのキックオフセミナーを開催しました。




山納

先程、島さんからも古紙にすき込むイチョウの葉を社員と一緒に回収しに行ったというお話をされていましたが、どうすれば社内での情報共有ができ社員が自分のこととして動けるのかを考え、動く、そういうことでしょうか。




飯田・島

はい。

山納
では、プロデューサーはこのような課題を埋める役割だということを認識し、株式会社久宝金属製作所でプロデューサーを務めるハーズ実験デザイン研究所のムラタさんにお話いただきたいと思います。



ムラタ

私がプロデューサーとして大切にしているのは話を“聞く”ということ。ここに時間をかけることで、相手の核心を引き出します。ここを大切にしないとプロジェクトは上手くいきません。視点の創造もそうですが、視点の共有、私はwillの共有といいますが、これがプロデュースでは一番大切だと考えています。









山納

企業がどんな資源を持っているのかをマップ化する、可視化する。
企業のwillというものをどう示していくのか。
実は、デザインプロデュースという言葉を使うとデザインをしているかのように聞こえますが、実はそのよく見えない基盤の部分を整える作業ではないかと思います。
ニーズをキャッチし、その課題を引き受けてこれとは別にうちはこれを提供しますという。

山納  

ところで、久宝金属製作所ではマーケティングリサーチをしたことで、あえて製品開発に時間をかけるという過程をとられましたが、そのあたりのお話をお聞かせください。
ムラタ  

子どもが使うという点では、やはり安全性を一番に考えました。その上でマーケティングやモニタリングを重ね、予期せぬ使い方をされたときのことも想定し試作を重ねました。そうするうちに、当初の申請内容とは異なる仕様や計画に変わっていくこともありますが、そのR&Dが本来の商品開発の姿だと考えています。
まず、どのプロジェクトも100%といってよいほどスムーズに進むことはありませんが、様々な都合に合わせていくうちに、本来のwillから離れていってしまうことを防ぎ、最適化することもプロデューサーの役割だと考えています。



山納

消費者へのモニタリングということでは、大阪タオル工業組合では東京と大阪の展示会で毎年3000近いアンケートを集めています。しかしタオルメーカーの取引き先は卸問屋。なぜ、あえて消費者のアンケートを集めているのですか。




株式会社尾原デザインスタジオ 尾原久永氏

これまでメーカーはどんなタオルが売れる、売れないなどを考えず、必死でつくり続けるだけでした。しかしタオルが売れなくなってからも、やり方を変えるのは面倒だからと何もしてこなかった。やり方を変えないと売れない、そのことにどうすれば気付いてもらえるのか、その一つが展示会でのモニタリングでした。アンケートで消費者の意見を拾い上げ「あなたがつくっている製品は売れないよ」ということに気付いてもらう。そこに気付き、モノづくりを変えてきた企業は泉州こだわりタオルの展示会に必ず出品できるようになり、独自性の強いモノづくりができるようになってきます。


飯田

マーケティング調査で重要なのは目的が絞れているかという点です。調査した後の評価リストがプロジェクトを左右します。これを企業側に提示するのはプロデューサーの役割ですね。


山納 

プロデューサーの仕事は、企業が何を目標にどう進んでいくのかという道筋を、見えないところで整える仕事だということが皆さんのお話から少し判ってきました。良く質問を受けますが、企業の新事業展開をプロデュースするのであれば、ビジネスコンサルや企業再生業者でもよく、なぜ「デザインプロデュース」なのかという点ではいかがでしょうか。


飯田 
とくにモノづくりの場合、モノを現実に世の中に出すための過程を理解し、素材や技術を含めプロセスを理解でき、現場に密着できるというのが最低条件です。そういう点ではモノづくりにおけるプロデュースにおいてはデザイン力に長けるプロデューサーが適切かと思います。


ムラタ 
視点を創造し、その情報を共有、確認するというプロセスはずばり、デザインのプロセスそのものです。モノを取り巻く人・モノ・金の流れを観察し、問題を見つけ出し、解決方法を把握しプロジェクトをスタートさせ、実施設計から結果を導きだし、フィードバックの観察に戻る。ただ、デザイナーはデザインの費用対効果を数字で示すことが全般的に苦手です。やはり、ビジネスとして導く上ではデザイナーがこの課題を直視するべきだと考えています。


山納  

これからデザインプロデュースに取組んでいこう、もしくはデザイナーからプロデューサーを目指そうという方に一言お願いできますでしょうか。

 
尾原 
 
「売れるもの考えてほしい」「こんな技術もってるけど、売れる様にしてよ」とか、漠然とした依頼をされる企業がとても多いです。商品を誰に、何の目的につくり売っていくのか、いるのか、基本的なそれがないまま漠然とつくり続けているため、依頼も漠然とならざるをえない。自身の商品を棚に上げて、人任せでビジネスを成功させようとしてもそれは無理な話。中小企業では自ら入り口を閉ざしている社長が多いと思います。

 
島  

あらゆる企業と取組む中で共通するキーワードは「ソーシャル」「サスティナリビティ」「サービス」。BtoB、BtoCとよく言いますが、僕はBwithCの取り組みがデザインプロデュースだと思っています。



 
飯田  

まず正しい情報を集める。次に目的。何がしたのかを明確にする。そして、事業主体者である企業と価値の共有ができているか、この3点がデザインプロデュースにとって重要なポイントだと思います。 






ムラタ  

仕掛ける戦略を練り、一番のタイミングで仕掛けることで思惑通り社会が動く。デザインの力を使いプロデュースすることで、通常5年かかるところが1年で利益を上げることも可能になってくる。そういうデザインマジックができる人をプロデューサーだと思っています。 



玉川  

飯田さんと共に事業に取り組みはじめて2年。一番大切なのは信頼関係だと感じています。彼とは以前の会社で同じチームでしたから、基本的に価値観を共有できると思っていました。2年間ご一緒してやっと価値の共有ができてきました。互いの価値を認めることができるからこそ進むことができる。これから2人でこの事業を仕上げ、社会に価値のあるものを残していきたいと思います。
 
山納  

プロデューサーにはどうすれば出会えますかと質問をよく受けます。デザインプロデュース向上委員会は、デザインプロデュースの手法やプロデューサーを見極めるための文法を広く世の中に広報していく役割を担っています。今回、開催したミーティングの目的もそこにあります。もし、こんな事業を考えていのでプロデューサーに出会いたいという要望がありましたら、大阪府産業デザインセンター、もしくは大阪産業創造振興機構へご相談ください。
皆様、本日はありがとうございました。

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