デザインプロデュースの現場


デザインプロデュース向上委員会フォーラム2014 「デザイン×プロデュースでモノづくりを変える!」

  • 2014年3月26日(水) 06:06 JST
  • 投稿者:
    matsumoto

デザインプロデュース向上委員会は「デザインプロデュース型商品開発促進事業」のサポーターとして23年度から3年間に渡り、9つの採択プロジェクトとともに併走してきました。各採択事業者様も熱い思いを抱き、プロデューサーとともに責任感と行動力で事業を力強く引っ張っり3年間を全力で走り抜けました。その集大成として2014年2月26日、「デザインプロデュース向上委員会フォーラム2014」を開催しました。





当日は株式会社クルー代表取締役 馬場了氏と事業統括コーディネーター 山納洋による基調対談「デザイン×プロデュースとは」からはじまり、採択事業者株式会社オプスデザイン、山陽製紙株式会社、株式会社ピーエーエスによる成果事例発表を行いました。その後、採択事業者とそのプロデューサーがプロジェクトに取り組んでみて、見えてきた可能性と課題について意見交換を行いました。




■基調講演

プロデューサーにとっての大切な仕事とは。
 

山納 
 
まず企業や事業のプロデュースをされる馬場さんから見て、なぜプロデューサーが必要なのか、どういう役割をするのか。また、プロデュースの善し悪しなどをお聞かせください。 










馬場 
プロデューサーにとって大切な仕事とは、

(1)経営者の情熱とアイデアをゆるぎないビジョンにつくりあげること (2)世間の常識を疑い、経営者とともにビジネスの立ち位置を熟慮すること(3)「儲け話=事業構想」のシナリオを描くことだと考えます。 




(1) 経営者は自らのアイデアと情熱を信じ、社会的使命感も強いが、「儲け話=事業構想」には弱いという特性を持っています。それを踏まえ、プロデューサーは経営者が手段を目的と勘違いしないように気をつけて「事業を通じて、どのような世界を創りたいのですか」と常に経営者に問いかけ、ビジョンづくりのお手伝いをする必要があります。 



(2) 請負型のBtoBを主としてきたメーカーは、BtoC向けの自社商品開発を目指すことが多いですが一朝一夕にはできません。最終消費者のニーズを熟知し、製品を商品としてつくり上げ顧客に届ける販路を開拓しなければならない。そのためには開発初期に、想定する顧客に仮説をぶつけて潜在ニーズを発想することでBtoB向けの商品開発に挑み、販路を持つビジネスパートナーに売ってもらう。それを私流に言えば、CturnBtoB。プロデューサーは、経営者に対して世間で常識となっているニーズを追うのではなく、自社オリジナルのビジネスの立ち位置を検証する場面をつくることが大切です。 
 
 
 
(3) 川上から川下までの一連の流れを指し示す「スマイルカーブ」。プロデューサーの力量が試される3つ目は、左口角にあたる企業のシーズと右口角にあたる市場のニーズの価値を高め、バランスの良い笑顔にするために、研究開発からアフターサービスにいたる事業プロセス=儲け話のシナリオを描くこと。 




デザインプロデューサーは、数字に強いだけでもデザイン感覚に優れているだけでもマーケットリサーチに長けているだけでもダメ。全体を横断して良い笑顔となる儲け話のシナリオを描く仕事ができる人でないといけません。
 

山納 

中小企業にとってのマーケティングリサーチについて、お話しをいただけますでしょうか。  
馬場

新規事業を立ち上げる際にはマーケティングリサーチが必要です。しかし過去・現在の事象をもとに膨大なデータを収集し、数学的・心理的な手法をもとに未来の答えを求めても、情報のネタ元が同じであれば結論は同じになるので意味がありません。情報は常に意識して集める、それを知識化し脳の中で何時でも引き出せるようにタグ付けしておくことが大切です。それを手がかりにテーマを決め、発想し、仮説(仮の商品案)を立てる。仮説を検証するためにモニター(想定カスタマー)を集めリサーチをする。モニターの方々の意見を分析し、本当にそれが正しいのかを確かめていく。これが仮説をC(カスタマー)に投げ、ターンし(いったん戻り)、BtoB(製品開発に活かす)CturnBtoBのプロセス。このように考えるとコストも安くすみ、遙かに早い開発ができます。



山納

ニーズを探るということは、すでにあるものを探っていくということ。それで市場にあるもの以上の商品は開発できないという、マーケティングリサーチの落とし穴とも言えるところですね。中小企業がニッチな商品開発に取り組むときの姿勢として非常に大切なポイントだと思います。




■パネルディスカッション

プロジェクトに取り組んでみて、見えてきた可能性と課題について

さて、これからはプレゼンテーションをしていただいた採択事業者の方とそのプロデューサーの方にも同席いただき、パネルディスカッションの場とさせていただきます。
まず「デザインプロデュース型商品開発促進事業」に参加された感想をお聞かせください。







株式会社オプスデザイン 神崎恵美子

デザイン事務所の私たちが統括的に介在することで、関西のものづくり企業が同時に多発的に発信することができたと思います。またプロデューサーの手によるアートディレクションが入ったことで、商品と情報を統一性を持って発信することができたと思います。











山陽製紙株式会社 原田千秋

弊社は約60年間産業用の包装資材をつくり続けてきた企業です。ものづくりはできるけれど、商品化には全くノウハウがありませんでした。最初は単純にデザインの良い商品ができれば売れるだろうと考えていました。しかし、商品とはどういうものなのか、どのような思いでつくっていくのか、組織をどうつくればいいのかなどプロデューサーの言葉の意味が少しずつ理解できるようになり、会社の方向性や組織のあり方を含め学ばせていただいた3年間でした。



株式会社マーシーデザインズ 島直哉

私はこれまで、流通におけるプロダクト・サービスのプロデュースを行ってきました。山陽製紙様の事業であるエコビジネスにおける仕組みの構築という大きなテーマに対して、私自身も大変なプレッシャーを感じた時期もありました。しかし結果としてこの3年間、ご理解いただきながら併走でき、楽しく仕事をすることができました。






株式会社ピーエーエス 野村寿子

正直、展示会に出展してからは、本当に忙しかったのですが、そんな中でも本来の福祉の業務を置き去りにすることなく、また社員全員の志気を下げることなく、社長や私がいなくても回る体制をつくることができ、会社がどんどん成長いくのを感じられたことは、とても幸せです。




株式会社ジールプラス 野口顕


デザインやブランディングを発注されている立場でいうと、やはり時間は欲しい。しかしいい商品だからこそ早く売って、早く儲けたい!社長の思いに対してどう答えを出すのかというのが一番の課題でした。限られた時間の中でどう実現させるのか、本当のところ大変でした。

山納


これまでの話を聞いていますと、デザインプロデュースとは商品をつくりデザインをし、それを市場に出す一連のプロセスをコントロールするだけではなく、“会社が変わっていく”ということをそれぞれの採択事業者の方々が感じられています。デザインがスタイリングや色だけでない、事業構築までも含む広い意味でのデザインとしてちゃんと機能したことの証だと思います。



では、このデザインプロデュースのプロセスを経て会社がどのように変化していったのかをお聞きしたいと思います。


神崎

バックボーンが違う者同士が、関西を元気にしたいという思いからお互いに歩み寄り、一緒にものづくりを行っていく中で話し合い体感することで、参画してくださった企業に少しずつ変化が見えるようになってきました。



原田

最初は社員の中でも「なにをやっているのか?」という疑問で一杯だったと思います。理解してもらうために経営計画の発表の場にプロデューサーの島さんに来ていただいたり、経営理念について何度となく社員に語りかけることで、社の方針を知り、理解してもらえるように多くの機会をつくりました。その甲斐があって、社員が積極的に製品開発を行うようになりました。今では社員自身が商品サンプルをつくり、社内のプレゼンで合格したものを、消費者モニターにかけるということも行えるようになりました。





初年度は現場とのコミュニケーションに神経を使いました。まず社員の方々に経営者がやろうとしているベクトルをどのように見せていくのかというのが課題でした。1年目の取り組みとして、年末のエコプロダクツ展用の紙にすき込むための材料として、御堂筋にイチョウの葉っぱを拾いに行ったりしました。また、弊社のスタッフとともにマーケティング調査に出向いたりして、一緒に感じてもらう場を多くつくりました。その結果、2年目に入り、社員の皆さんが主体的なり、積極的な発言も増え、どんどんプロジェクトが転がってきたように感じます。

野村
私や社長がいなくてもp!ntoの説明がしっかりできる社員の姿を見ると、みんなで頑張ってきた証のようでとても嬉しいです。p!ntoのスピード感のある売り上げを目の当たりにして、同じ時間を使いながら福祉の商材が前年度と売り上げが変わらないのは、おかしいのではないかと思うようになってきました。今年はp!ntoで培ったマーケティングや販売戦力を福祉の業界でもやっていきたいと思っています。

野口
企業を変える仕組みづくりについて、常にコミュニケーションを軸にして考えています。企業を成長させるのは企業自身、いくらこちらサイドで面白いことを考えても企業そのもののテンションが上がらないと爆発はしません。そのために経営者をはじめ社員の方々とも徹底的にコミュニケーションを取ります。また、早い段階でなんらかの結果を出し、成功体験をしてもらうことが一番明確で大事です。依頼を受けた時点で困っている企業がほとんどですから、スピード感を持って結果を出すことが一番。成功すればどんちゃん騒ぎをするなり、楽しいことを共有する。そういうことを続けることで企業自身も変化していくと考えています。
山納

外部のプロデューサーやデザイナーと一緒に仕事をするときには、社員との間に溝ができやすい。社長はビジョンを持っているが、社員はそこまで気づいていない。プロデューサーの役割とは社長が指し示したビジョンを、社員一人ひとりに浸透させることで道を切り開くということ。そのあたりについて馬場さんのお話をお聞きしたいと思います。





馬場

プロデューサーは隠れ世話役です。主役はリスクを負う事業当事者だということを心し、理念を持ち続ける経営者を鼓舞し、応援することに徹します。物事は社長室ではなく会社全体で起こっています。「社長が何か始めたぞ!」という空気を出させてはいけません。コミュニケーションを深めるために必要なのはデザイン、マーケティングの専門用語や四字熟語を使わず、ひらがなを交えて、誰にでもわかる言葉で話すこと。そのようにして人心を掌握し、やる気を起こすのがプロデューサーの役割です。自然科学の法則や原理、経済学の基礎など基本的なことは知っておき、それをベースに地頭力(応用力)でもって仮説を立て、タフな継続力で成功するまで諦めない。人を大好きになる力、人から嫌われない自分をしっかりつくる、というのがプロデューサーの姿勢だと思います。
皆さんのお話を聞いていますと、最終的にコミュニケーション力に尽きると感じます。人々の気持ちをあおるアジテーションでも、伝えるだけのインフォメーションでも説得するプレゼンテーションでもない、コミュニケーション能力こそがプロデューサーの不可欠な資質と言えるでしょう。

山納


馬場さんはさらっとおっしゃいましたが、基礎的な学力・地頭力・応用力・タフな継続力・人を好きになる・人に嫌われない力そしてコミュニケーション力。プロデューサーになるのはなかなか大変です。



では、最後にこれからデザインプロデュースに取り組みたいと思っている方々に皆様からアドバイスをいただけますでしょうか。

野村

弊社は自分たちで責任を持ち諦めずにやりきるのが社風です。しかしプロに任せるところは任せないと事は上手く運ばない、と痛感しました。福祉の業界ではデザインを頼むことはとてもハードルが高く、考えも及ばないことでした。しかし、それを補えるほどの売り上げをつくるという決心をすればいいのだと学ぶことができました。


原田

思いをずっと伝えていけば必ず応援してくれる人が出てきて、その輪が広がっていくということを感じました。








神崎
心掛けているのは理解し合うこと。お互い自分の言語でしゃべるのではなく、どうわかりあえるのかという歩み寄りを大切にしています。強みを共有して尊重し合う。そういった関係性づくりをすると物事が進んでいくのではないかと思います。




プロデュースという立場から話すと、馬場さんがおっしゃったように一歩も二歩も引いた状態でいろんな交渉や調整をするのがほとんど。泥臭い話もすべて飲み込む覚悟と準備が経営者・プロデューサーともに必要です。そのうえで情熱的に、かつ客観的に事業をまとめていく。すべての物事には多面性があるので、その中でこの事業をこう動かすと絶対に間違いはないという点をしっかりと話し合いながらやっていくのがいいと思います。




野口


やはり主役は経営者。プロデューサーはあくまでも裏方で、企業、社長の最高の理解者にならないといけないと思っています。企業の成功が僕らの喜びです。どうしたいか、どうありたいかという強い信念を持って諦めない、それがなければ成功しないと思います。




松本

3年間、併走させていただいて思うことは主役はやはり事業者であることです。プロデューサーやデザイナーを使いこなせるぐらいの意気込みが必要ではないかと思います。今回のようにプロデューサーやデザイナーの力を借りつつも、最終的にはそのノウハウを自ら使えるようになること、経営者がプロデューサーとしての資質を身につけることが大切だと思います。

馬場

プロデューサーにふさわしい人。それはちゃんと生活ができている人。生活能力がある人。生活に対して関心がある人。人にも関心があって、人が好きで、自分の生活を維持する能力がある人。たったこれだけの話です。そのうえでひとつだけ断トツのものを持つこと。それをベースに人の話を聞き、こういうことなんだろうなと推測し、相談企業の立場で再編集する。こうかもしれないという仮説の引き出しをたくさん持ち、できればその中から儲け話というシナリオを描くことが好きになれる人。そういう人はプロデューサーになれると思います。私はインダストリアルデザイナー出身ですが、振り返るとそんなことをやってきたなと、私の経験を通してのアドバイスです。

山納
それではみなさん、長時間ありがとうございました。
デザインプロデュース型商品開発事業はこの3月で終了です。
9つの採択事業者様は今後も歩みをとめることなく邁進されるでしょう。
どうぞ、みなさま今後とも応援をお願いいたします。
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